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夢​幻​の​如​く phantom dream

by 佐藤正道

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1.
夢中 31:14

about

 愛とは真実である。しかし偶像である。偶像であるがゆえ無数に存在する。つまりその無数の愛、すべてが真実なのである。煙草を吸いながらふとそんなことを考えていた僕は自分に向けられた怒鳴り声で我にかえった。
おい、聞いてんのか!?ここは禁煙だっていってんだろ。
こいつはジャイアン。この施設で一番の乱暴者。
僕は煙草の火を消すと目を会わせず部屋を出た。
おいてめー!!灰皿で消せよ!

 怒鳴っているジャイアンを尻目に僕は自分の部屋に戻った。ジャイアンに絡まれたらなにをされるか分からない。
僕はがらんとした部屋にある少ない荷物をリュックに片付けはじめた。
今日僕はこの施設を出なければならない。簡単に言えば引っ越しだ。片付けはすぐ終わった。荷物といっても大したものはない。家具は全てここのものだし、先週まで施設のゴミ捨て場で拾った使えそうなものが少しあったぐらいでほとんどはガラクタ、既に処分済みだ。とはいってもリュックはパンパンだが。片付けを終え煙草に火をつけると時計を見た。時間だ。

 煙草を燻らせながら玄関へと向かうと受付の女性が俺に向かって、木村さーん、施設内は禁煙ですよと言った。
まだ名前も覚えていないのか。口には出さなかったが僕はその女性を睨み付けるとテーブルでぎゅっと煙草の火を消して吸い殻を投げつけた。きゃっと怯む女性を横目に玄関を出て送迎車に向かった。途中、外にあった傘立てを蹴り飛ばした。
車から知らない女性が二人降りてきて
おとうさん、こっちですよ。と手を握ろうとしてきた。とっさに振りほどくと怯えていたので優しく笑いかけた。車の後部座席のドアをあけ階段を上りシートに座った。
横開きの自動ドアがゆっくりと締まる。両側から女性が僕を挟むように座席に座った。
外には名前を覚えない受付の女性、いつも怒っていたジャイアン、名前も分からない担当の医者が出迎えに来ていた。
僕が煙草に火をつけようとすると隣に座っていた女性が、おとうさん、禁煙よ、といって煙草を奪った。運転手が出発します、と言うと女性が慣れた手つきで僕にシートベルトをつけた。
僕は煙草を吸おうとポケットに手を入れたがどこにもない。
エンジンがかかり車は少し揺れるとゆっくりと走り出した。
僕を乗せた車は次の老人ホームへ向かっていった。

credits

released March 19, 2019

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